人材サービス産業について 私たちの課題

私たちの課題

人材サービス産業は労働市場において需給調整機能の高度化に貢献してきた一方で、解決すべき課題も少なくありません。

外部労働市場を通じた有期雇用社員のキャリア形成

高い不確実性にさらされる企業は、長期継続雇用の対象となる、いわゆる正社員を従来の規模で維持することは難しく、有期雇用社員や外部人材である派遣・請負社員などの活用を拡大しています。
キャリアパスや活用業務が限定されるこれらの雇用形態では、能力開発の機会は、その業務に必要な範囲でしか提供されていません。 派遣・請負社員も含め、有期雇用で働く者に関して、活用業務に必要な範囲を超えた能力開発機会の提供を、企業に期待することは現実的ではありません。むしろ、外部労働市場を通じたキャリア形成のあり方を模索する必要があります。

就業管理を通じた派遣・請負社員の能力・処遇の向上

派遣・請負など、就業管理機能も担う事業形態においては、雇用主としてキャリア形成支援や処遇改善に一層の努力が求められます。すでにそれらに取り組んでいる派遣・請負会社も少なくありませんが、依然として「派遣社員の希望」と「派遣会社の取り組み実態」との隔たりは大きく、派遣社員の期待に沿う対応ができていないのが現状です。
派遣・請負会社は、ユーザー企業の協力を得ながら、派遣・請負社員のニーズに応えていく必要があります。

マッチング能力の向上によるミスマッチの防止

「個人の就業ニーズ」と「企業の人材活用ニーズ」を迅速・的確にマッチングすることは、人材サービス産業の各事業に共通した課題です。しかし、就業ニーズと人材活用ニーズの多様化や高度化が進むなかで、両者を結びつけることは一層難しくなっており、ミスマッチの増加が懸念されています。

人材サービス産業が両者のニーズを結びつけるためには、個人・企業双方の希望条件を調整し、マッチングするための技術の向上が欠かせません。例えば、企業と個人双方に対してきめ細かいヒアリングを行いながら、希望条件に優先順位をつけるための判断材料を提供したり、企業に対して時には入社後の能力開発も見据えた採用を検討してもらうなど、企業の人材活用全般にわたる助言を行ったりすることなどです。また、個人に対しては、企業が求めている職業能力が何かなど労働市場に関する情報提供をし、能力開発を促すことも必要です。

人材サービス産業には、より多くの就業機会の開拓と就業希望を持つ多様な人材の発掘・育成を行うことと併行して、これまで以上にマッチング能力の向上に取組み、就業ニーズと人材活用ニーズを結びつけることが期待されています。

人材育成による人材サービス産業の高度化

マッチング能力の向上や中長期的な視点から個人のキャリア形成を支援していくためには、人材サービス産業に従事する者の職業能力の専門化、高度化が不可欠です。

人材サービス産業では、2006年に大きく報じられた偽装請負問題をはじめとして、一部の事業者による賃金の違法な天引きや社会保険への未加入などコンプライアンス上の問題が次々と生じました。このような問題を解消するためには、人材サービス産業に携わる者すべてに高い順法精神が求められることはもとより、違法あるいは脱法的な行為を繰り返す悪質事業者に市場からの撤退を促し、優良事業者が社会的に評価される仕組みの整備が必要です。

これまでも、各業界団体においては会員企業向けの教育研修事業や啓発事業なども積極的に取り組んできました。自主ルールの制定や優良請負事業者認定制度も有効な方法ですが、それらが形骸化することのないよう、人材サービス産業従事者の職業能力の専門化と高度化のための教育研修に力を入れなければなりません。

人材サービス産業に対する正しい理解の普及

人材サービス産業が抱える課題のひとつに、業界に対する誤解が多いことも挙げられます。代表的なものは、「過剰な利益を得ている」というイメージや、「不安定雇用の増大は人材サービス産業によってもたらされた」などです。

まず、派遣事業のコスト構造については、派遣料金のうち、派遣社員に支払う賃金が約7割です。社会保険料や教育訓練費用、募集費等が残りの3割の大部分を占めており、有給休暇取得時の賃金や不就労の際の補償にかかる費用もこの中から支払われます。そのため、派遣業界全体の営業利益率は1〜2%しかありません。

また、有期雇用で働く者の増加は労働市場の構造変化によるものです。人材サービス産業は、有期雇用から正社員への転職につながる求人情報の提供や、未経験分野への転職のサポートにも積極的に取り組んでいます。 この問題は、人材サービス産業だけですべて解決することはできない労働市場の構造的な課題ととらえ、企業と人材サービス産業が連携して、その解決に臨むことが重要であると考えています。